トレイルランニングでのファーストエイドキットの必要性と内容

トレイルランニングでのファーストエイドキットの必要性と内容

トレイルランニングは山を走るスポーツであり、当然ながら街から離れるため山の中でのケガなどには十分注意する必要があります。トレイルランニングというスポーツの性質上、より軽量化するため最低限の荷物で挑戦する方もいらっしゃいますが、山に行く以上自力もしくは同行者と共に下山しなければなりません。

自責のケガにより歩行が困難になったり、自責でなくても落石やスズメバチに刺されるなど気を付けていてもどうしようもない事故も発生する可能性があります。

そういった場合に迅速に対応できるものを詰め込んだ持ち運びできる救急箱がファーストエイドキット(Fast Aid Kit)です。レースはもちろんですが、低山であれ、トレイルランニングの練習会であれ、山に入る場合は必ず持参しましょう。

ファーストエイドの定義

ファーストエイドを、“急な病気やけがをした人を助けるためにとる最初の行動”と定義した。ファーストエイドはどのような状況においても誰によっても開始されうるものである。

ファーストエイドの目的は、人の命を守り、苦痛を和らげ、それ以上の病気やけがの悪化 を防ぎ、回復を促すことである。

出典:JRC(Japan Resuscitation Council 日本蘇生協議会)ガイドライン 2015

想定されるリスク

ファーストエイドキットを準備する場合、何を入れていくか考える必要がありますが、ポイントは「リスクを想定し、それに対応できるものを用意する」ことです。ただし前提として「トレイルランニングで日帰りもしくは連続24時間程度の山行(レース・練習会・単独練習)であること  *テント泊など長期山行は想定外」とします。 現時点で私が考えつくリスクとしては

  • 転倒や滑落などによるケガ → 擦り傷、切り傷、打撲、骨折、トゲ、捻挫、出血など
  • 毒虫(蜂、山ビル)などによるケガ → かゆみ、かぶれ、痛み、アレルギー反応(アナフィラキシーショック)など
  • 植物などによるケガ → かぶれ、切り傷など
  • 動物(ヘビ、熊)などによるケガ → 咬傷、毒、出血、感染症など
  • 雨や高所による低体温 → 低体温症など

ファーストエイドキットの中身

上記で記載したリスクに対応するファーストエイドキットの中身(参考)を記載しますが、全てに完璧に対応しようとするとファーストエイドキットでザックがいっぱいになってしまうので、最低限必要と思われるもの+よりあれば良いもので記載していきたいと思います。自分なりのファーストエイドキットを作る参考にして下さい。*仲間と共に行く場合には分担して持って行くのもありですね。

ファーストエイドキット袋

ファーストエイドを携行する袋ですが、下記のようないかにもファーストエイドだぞっていう袋を購入するのもアリです。良い点としては身動きできないときに他の人が荷物の中からファーストエイドを見つけてくれます(目立つからね)いまいちな点は、防水のモノは高く重いです。安いものは防水性能がありません。また中身も入ってるセットもありますが、不要なモノも入ってるので、特に面倒でなければ自分で揃えた方が安いです。

見た目にこだわらないのであれば、ジップロックのMサイズあたりで防水ですし、何の問題もありません(*^_^*) 1枚10円〜20円ぐらいですし、2枚使っても50円以下。

ケガ対応

擦り傷/切り傷/出血 系

山の中の不整地を走ると、しんどいし足も上がらないから木の根っこなんかで躓いたり、コケます(^^ゞ キレイに転ければ良い方でバランスを崩すと最悪、滑落等にも繋がります。その際に出血を伴うようなキズになるので対応できる準備をしましょう。

キズの応急処置の基本は

  1. 洗浄
  2. 消毒
  3. 傷口の保護&圧迫して止血

とありますが、消毒とガーゼの代わりにドレッシング材と防水フィルムでも良いので私は後者を選択します。

最低限必要なもの

■洗浄

・いろはすのペットボトル+フタを加工(約100円)

トレイルランニングをしている最中のケガであれば、フラスクかハイドレーションに水があると思います(OS-1とかスポーツドリンクしか持って行かないという人は、念のため水も持って行った方が良いですよ)ただし いざ傷口を洗おうとしてもハイドレからチョロチョロ水を出しても傷口は洗えません。勢いよくシャワー状に水を出して、キズに付いた土とか砂を洗い流しましょう。そこで必須なのが「いろはすのペットボトル」です。フタにあらかじめ穴を開けておき、水を入れるとシャワー状に噴射できるようにします。いろはすのペットボトルがつぶしやすくて軽くて良い!軽量化するのであれば、100円ショップの注射器でもOK

■保護&止血

・絆創膏(約10円/枚)

小さいキズの場合は、絆創膏を何枚か入れておきましょう。ただし治療ではなく、あくまで保護なので、家に帰ってからちゃんと処理して下さい。

・プラスモイスト ヘモスタパッド(約1000円)

出血を伴うようなキズで使用します。アルギン酸カルシウム不織布が血液の吸収を行い、優れた吸収力(20g/10cm角あたり)で、滲出液の多い傷口の保護材としても使用でき、防漏シートが血液の飛散、汚染、漏れを防ぎます。直接圧迫止血にも使用できます。また、ガーゼなどとは違い、傷口の乾燥を防ぎ、傷口への張り付きを防ぎます。必要な分だけ切り分けて使用できますが防水ではないので、防水テープと併用した方が良いです。

・ズイコウ ハイドロコロイド包帯(約700円)

出血ではなく、少し深い擦り傷などに使用し、キズ口を清潔にし、そこから出る体液(滲出液)を保つことで痛みが少なく、キズは早くきれいに治る」という考え方(=モイストヒーリング)キズパワーパッドなどに代表される素材のシート版です。必要な分だけ切り分けて使用できます。こちらも上から防水シートとの併用をお勧めします。

・デルガード 防水フィルム(約500円)

ヘモスタパッドやハイドロコロイドを使用した際に、上から貼り付ける防水シートです。防水性と透湿性を併せ持った、かぶれにくい(蒸れにくい)素材になっています。こちらも必要な分だけ切り分けて使用できます。

・ゴム手袋(約2円/1set)

止血の手当を行うときは、感染防止のため血液に直接触れないように、できるだけゴム手袋やビニール手袋を使用します。必須です。100円ショップで1円/枚で売ってるので入れておきましょう。

+あったら便利なもの

■消毒

・イソジン 消毒液

消毒は家庭同様に消毒液を使いましょう。ただ液体で重いので、ちょっと値段は張りますがイソジンのキズ薬30ml(54.4g)なら手軽です

■止血(ガーゼと包帯)

圧迫止血のガーゼや包帯などもあると安心かと思います。最近は100円ショップでもある程度のものは買えるので、探してみてはいかがでしょう。

捻挫/打撲/骨折 系

コケて血が出るのが嫌なので、守ろうとして変な体勢でコケてしまうと足首のねんざ、ヒザ痛、手を突いて手首やヒジや肩を痛める事が多いです。レース序盤や奥地で捻挫や打撲などになってしまうと帰ってくるのも大変です。捻挫ならまだしも骨折などになると何とか帰ってこれるようにしておかないと最悪遭難等にも繋がります。最低限の準備はしておきましょう。

最低限必要なもの

■テーピング(非伸縮)

非伸縮のテープはヒザなどの関節固定や、捻挫・骨折の固定に使用します。また、クツが破れたりザックの補修などにも使えるので入れておきましょう

■テーピング(伸縮)

キネシオテープなど伸縮性のテーピングは捻挫時の補強、筋肉のブレ防止など急なサポートにも役立ちます。ロールで持って行くと邪魔なので、ある程度の長さを短冊状にして持って行くことをお勧めします。

■ハサミかナイフ

テーピングを切るだけでなく衣服などを切る際にもハサミかナイフなどがあれば便利。ULハイクも視野に入れるのであれば、マルチツールをひとつ入れておけば安心ですね。どちらにしろ軽いものが良いです。

ハサミであればテーピング用のものが安全です

マルチツールは下記のような最低限のものであれば22.7gと軽量です。

■手拭い

意外と便利なのが手拭いです。三角巾の代わりに腕を吊ったり、包帯代わりに巻いたりできます。使わなければそのまま下山後の温泉で使えば良いので1枚(私はタオル代わりにも持って行くので2枚入れてます)入れておきましょう。

山小屋や、「かまわぬ」などで好きなものを選びましょう。

+あったら便利なもの

■サムスプリント

骨折や捻挫の時に副木変わりとして体の形や大きさに合わせて自在にカット・成形して使用します。携帯も可能ですので荷物に余裕があればどうぞ。

虫予防・対応

山の中に入ると どうしても避けて通れないのが虫とか害虫ですね。蚊・アブ・ブヨ・ヒル・ダニは鬱陶しいだけですが、ハチとヘビは危険です。鬱陶しいものは予防し、ハチとヘビには基本近づかない、刺激しない方向で。予防のグッズは山に入る前に付けておけば良いので、ファーストエイドとして持って行く必要はありませんが、実際に刺された場合の対策については用意しておいた方が無難です。

予防

市販薬で良く効くのはディートが高配合されている下記製品です。蚊・ブヨ・マダニ・サシバエなどに効くそうです。ディートの成分が濃いものは子供への使用が禁止されていますので、注意しましょう。

ディートが怖いよという人は、天然成分のハッカ油虫除けスプレーを自作してもOKです。次の4つを用意します。それは、ハッカ油、エタノール(無水または消毒用エタノール)、精製水(水道水でも良い)、スプレー容器の4つです。作り方は、30ml作るとして、容器にエタノールを5ml入れます。そこへハッカ油を2〜3滴垂らし、精製水を25ml入れて混ぜるだけです。ハッカの香りが良いです。後述するヤマビルの予防、対処にも効くそうです。

ヤマビルは専用の薬もあるので、ヒルの季節や出没情報がある場合は、「ヒル下がりのジョニー」という製品の効果が絶大です。これを靴や、靴下、下半身をメインにかけておくと安心です。

虫に刺されたら

予防対策をしていても、汗などで薬が流れると、刺されるときは刺されます。毒の無い蚊やブヨに刺されたら市販の薬で対処しましょう。

ハチ・アブにやられたら 

ハチに刺された時はポイズンリムーバなどで毒を吸い出すなどの応急処置を行い、傷口を洗って冷やします。その後、上記のムヒアルファEXなどの抗ヒスタミン軟膏を塗りましょう。

はじめてハチに刺された時は大きく腫れ上がるだけで済みますが、一度蜂に刺され、次に同じハチに刺された時にアレルギーの強い方は激しくアレルギー反応をおこし、最悪の場合死に至ります。俗に言うアナフィラキシーショックです。ハチによる死亡事例が多いのはこのアレルギー反応のためで、刺されて30分から1時間で血圧が低下し意識障害を起こし、最悪死に至ってしまいます。あまりにも甘くみている方が多いため、一度ハチに刺されたら皮膚科に受診されることを強くおすすめします。必要であればエピペンなどを処方してもらう事をお勧めします。

ヘビにやられたら

基本、登山道を離れなければ大丈夫かと思いますが、トレランをしていて、何度かヘビを見かけてるので確立はゼロではないですね。毒の無いヘビであれば良いですが、万が一マムシに噛まれた場合は、パニックにならず、座るか、横になってください。それから、噛まれたとこから5~6㎝上をタオルや服、手拭いなどで強くしすぎないようにしばります。次にポイズンリムーバーで直接噛まれたとこから毒を吸いだします。止血の際はずっと縛り続けるのではなく、10分に1回ほど緩めて患部の壊死を防いでください。

そして可能であれば、なるべく早く下山をし、病院へ向かいましょう。

マダニにやられたら

マダニはクモに近い身体の特徴を持つ節足動物の一種です。生息するのは山の中で、茂みや草むらに基本的には住んでいます。マダニの習性として、潜む植物に動物が触れると動物に引っ越しをします。人間が触れると人間へ引っ越すわけです。。マダニは頭の部分を人間の皮膚につっこんで吸血します。そのため無理にはがそうとすると、頭部だけが皮膚の中に残ってしまい、そこから感染症を発生する可能性があります。噛まれたらピンセットなどで取る方法もありますが、難しいので、専用の器具で除去しましょう。失敗して頭が残ったら下山後 皮膚科を受診して下さい。

簡単なマダニリムーバーとしては下記のようなものがあります。

ヒルにやられたら

ヤマビルは水分の多い沢筋、吸血対象となる動物が通る歩道や獣道、作業のために人の出入りが多いスギ林などに生息しており、気付かれないうちに吸血されることがあります。

予防の所に記載した「天然成分のハッカ油虫除けスプレー」や「ヒル下がりのジョニー」で対策は必須です。

もし吸血された場合には、「天然成分のハッカ油虫除けスプレー」に配合されているエタノールが効くので、無理に引き剥がさずシュッと吹き付けましょう。対処としては

①血が固まらない成分ヒルジンを排出する必要があるので、無理なくつねるようにヒルジンを体外に出す。
②患部を綺麗に消毒し、ムヒアルファEXなどの抗ヒスタミン軟膏を塗布する。

「天然成分のハッカ油虫除けスプレー」にも入れておけるエタノールはこちら

その他 命を守るために必要なもの

■保険証のコピー/山岳保険の会員証

ファーストエイドの中に念のため保険証のコピーと山岳保険の会員証は忍び込ませておきましょう。万が一話せない場合など、身分証明になるので。

■ココヘリ

遭難した際にビーコンで位置情報をヘリに知らせる端末です。

別記事「ココヘリ?ヒトココって何?サービス概要と必要性と金額」に詳細は記載しているので参照下さい。

■RoadID

リストバンド型のネームタグです。RoadID のサイトから購入可能で、日本語でも作成可能です。トレイルのイベントなどで走ってると一緒にいる人の名前もわからない場合が多いので、緊急連絡先を携帯しておいた方が、何か緊急事態になっても対応してくれます。

私の場合は 氏名/住所/緊急連絡先/血液型/アレルギー有無 を記載しています。

作り方の紹介は別途ブログに記載予定です

「RoadID」の画像検索結果

まとめ

必須のファーストエイドキット と +αを実際に作ってみます。

私が持って行く実際のファーストエイドキットは上記になります。内容としては

①ファーストエイドキットの袋:防水ではありませんが、中身を用途別にジップロックに小分けしているので、保管も兼ねて袋に入れています。実際にはジップロックだけ持って行くこともあります。

②虫除けスプレー:よく忘れるのでファーストエイドキットに入れています。実際は着替えをしてスプレーしたら置いていきます

③虫関連セット:天然成分のハッカ油虫除けスプレー、抗ヒスタミン軟膏、ポイズンリムーバーが入っています。マダニがいるところに行くときはマダニリムーバーも入れていきます。

④キズセット:ヘモスタパッド、ハイドロコロイド、防水フィルム、テーピング、絆創膏、ビニール手袋、テーピングハサミが入っています。あと念のため蘇生用マウスピースを入れています(AEDが無いのでできることは限られますが)*テーピングハサミが重いので軽量化する予定

⑤常備薬セット:コンタクト、胃腸薬、ガスター錠、痛み止め、鼻炎薬、下痢止め、エスタロンモカ、歯磨きジェルを入れてます。胃が弱いので胃腸薬は必須(^^ゞ

⑥ヒトココ:UD HardRockerの袋に入れてザックに付けています

⑦山岳保険会員証+保険証のコピー

⑧予備のライト:GENTOSの閃 にハンドベルトを付けています

あ、あと写真には入ってませんが、エマージェンシーシートもザックに忍ばせています。

山に入る際の距離、状態、季節などにより何を想定して、何を持って行くか検討頂けると少しでも安全に山行できるのではないかと思います。

(参考)ファーストエイドキットを使うための知識

ここまで、ファーストエイドに必要な商品を色々記載してきましたが、実際に現場で使えなければ、ただの重い荷物でしかありません。日常生活では止血などの方法を教わることもないので、各種講習などで勉強しておきましょう。

■救命講習

一般的な救命の講習に関しては、消防庁で実施されている講習が実技もあり、良いと思います。

普通救命講習:心肺蘇生やAED、異物除去、止血法などを学ぶコース

上級救命講習:普通救命(自動体外式除細動器業務従事者)講習の内容に加えて、小児・乳児の心肺蘇生、傷病者管理、外傷の応急手当、搬送法など学ぶコース

私も2年前に普通と上級を取得してきました。東京の場合は東京消防庁の救命講習のご案内を参照下さい。http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/life01-1.htm

その他、石井山専などのお店でもファーストエイドの講習会が開催されていたりするので、探してみてはいかがでしょう。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
ビマトアイドロップ